お客様から手紙が届いた。
その中にグッドデザイン賞の審査委員長である、深澤直人氏の記事が折り込まれていた。
思わず内容に引き込まれた。
W様に伺うと、「暮らしの手帖」最新号の記事とのことです。
以下、その記事の一部をご紹介させて頂きます。
グッドデザイン賞の審査委員長になって5年目になるが、毎年、審査に臨む前に共有しておきたいキーワードをあげてきた。「豊かさの定義」、「適正」、「使いやすさと美しさ」「関係の美」。そして今年は「心地の質」とした。その理由は、ものの姿や形がなくなってきていることにある。例えばエアコンや空気清浄機のデザインといえば、以前はその機械の「形」をデザインとして評価しようとしていた。しかし時代はもはや、その姿は壁の中に隠し、形ではなくそこから出てくる空気の質の善し悪しや、心地いいかどうかが問われるようになったというわけである。
誰がその質をつくり出し、その質の善し悪しを判断するか。それはデザイナーの仕事であり、デザイナーは目に見えない「心地の質」を感じとる力を身につけていなければならない。「センスがいい」といえばおしゃれなことを指すが、「センサーがいい」という風に言い換えてみれば、デザイナーはセンサーがよくなければならない、ということになる。
<中略>
つまりエアコンのデザインとは空気の質のことを指し、見た目の形ではなく身体が感じとっている「心地」を、デザインの善し悪しとしなければいけなくなったわけである。デザインの役割が、以前よりも進化したといえる。
<中略>
最近はアジアの都市に出かけることが多くなり、できるだけ心地の質の高いホテルに泊まるようにしている。ホテルは心地の質が複合した場所である。特に、空気が汚れた地域にあるホテルに入った瞬間、まるでオアシスのように空気が澄んでいると、心地の質の高さを感じる。
<中略>
すべては接したときに感じるもの、体感である。体感の積み重ねによって善し悪しがわかるようにならないと、心地の質の高いデザインはできない。
<中略>
私たちがデザインするのは、もはやものの形ではなく。心地こそ、ものの質を問う基準になろうとしている。心地の質をデザインするにはその質を経験することが大事だ。視覚ではなく体感からデザインするしか道がない。
人間の思うことは各々で異なるが、身体という感覚器は似通っている。人の「思い」に向かってデザインするのではない。人の感覚器が統合された「身体」に向かってデザインすることが肝腎だ。感覚器としての身体が感じとった心地の質は、人を心理的な快楽へと導いていく。それが幸せというものである。
<中略>
なぜこんなに心地いいのだろうという疑問は、ごく当たり前の感情なのだ。デザインの善し悪しを心地で測ってみよう。そうすれば、いいデザインは心地もいいということが自ずとわかってくる。美しいとかかっこいいという言葉でデザインで語るだけでなく、心地いいかどうか、その質でデザインを問い直してみると、生活の質はもっとよくなると思う。
【暮らしのデザイン 第18回 「心地の質」 より抜粋】
そして、追伸としてかわいい猫が添えられていました。
その文には、「先日埼玉の叔母が来て、とっても気持ちのいい家ねぇー!帰りたくないわぁ、心地良くって4時間休んでいきました!」と記されている。
W様邸は涼温な家であり、夏と冬を過ごされました。
猫にとっても、とても住み心地のいい家であると代弁して頂いております。
さりげなく、深澤直人氏の記事が添えられていたことにも感動しました。
ありがとうございます。
平澤 政利